HAVについて
Q1 HAV(A型肝炎ウイルス)、はどのようにして感染するのか??
- HAV(A型肝炎ウイルス)は、経口感染(口からの感染)によって感染し、集団発生します。
- 日本では、A型肝炎は第二次世界大戦前後までの衛生状態の悪い時期には、常在伝染病で絶えず流行していましたが、上下水道などの衛生環境の改善や、衛生指導が十分に行われるようになって大規模な集団発生はみられなくなりました。
- しかし、発展途上国ではA型肝炎は、まだ常在伝染病として広く流行しています。
- また、日本では、春先に多発する季節性があり、この時期に生カキの摂食と関連していましたが、最近では感染経路不明のことも多くなりました。
- 日本国内A型肝炎患者の現状としては、ほぼ毎年500人前後の患者が発生しています。
- 性行為による感染は1%前後という調査結果が出ており、中国・台湾・インド等の東南アジアで感染する人がほとんどです。
Q2 HAVとは?
- A型肝炎ウイルス(Hepatitis A virus:HAV)は、直径27nmの球型をして、一本鎖の線状RNAを持つウイルスです。
- 熱に対する強い抵抗性(60℃、60分の加熱でも死滅しません)を持ち、エーテル、酸(pH3・0)に対しても安定で死滅しませんが、100℃5分間の加熱処理によっては不活化されし感染力を失います。
- また一般のウイルスと同様に塩素あるいはホルマリン処理、紫外線照射などによっても感染性を失います。
- HAVに感染すると、HAVは肝細胞の細胞質中で増殖し、肝臓にのみ強い親和性を持ち、肝細胞以外の細胞、肝臓以外の臓器、組織での
増殖は明らかではありません。
Q3 HAVに感染すればどのような症状が出るのか?
- A型肝炎の症状は、発症初期の2〜3日続く38℃以上の発熱が最も特徴的で、その他に全身倦怠感、悪心嘔吐などの自覚症状も強く、
黄疸も起こることがあります。
- しかし、A型肝炎の劇症化の頻度はあまり高くなく、ほとんどが重症化することはありません。
- ただし、成人では、感染者の約1%に劇症肝炎が発生し、近年では、劇症肝炎の半数以上をA型肝炎が占めていますが、
予後は悪性化することなく比較的良好です。
Q4 HAVの感染の判断はどのようにするのか?
- A型肝炎の感染の診断は、感染後血液中に出てくるHAV抗体や糞便中からHAVそのものを見つける検査が主流でしたが、
最近ではHAV RNAの検出検査が行われています。
- 一般的な診断は、急性期から回復期にかけて血中に出現するIgM型HAV抗体を測定して行います。
- IgM型HAV抗体は、発症後1週目から出現し、3〜4週目に抗体価が最高となり、その後次第に低下し、発症3〜6ヵ月目に陰性化します。
- IgM型HAV抗体は、重症例ほど抗体価は高く、高値が持続します。
Q5 A型肝炎の一般検査所見は?
- 約半数のA型肝炎患者で急性期の末梢血中に異型リンパ球が出現し、さらに発症1〜2週目頃には血小板の数が減少します。
- 肝機能検査では高度の血清トランスアミラーゼ(AST(GOT)、ALT(GPT))値の上昇、ALP、γ-GTPなど胆道系酵素が軽度から中等度上昇、
さらにTTT、ZTT等の膠質検査の値が上昇し、とくに血清トランスアミラーゼの値が5,000 IUを超えるような急性ウイルス感染はA型肝炎に多く見られます。
- 血中IgM値の上昇もA型肝炎に特徴的でり、急性期蛋白であるCRPも他のウイルス肝炎に比べて高値を示すことが多く、また、
腹部超音波検査では、急性期には肝腫大とともに脾腫が見られる頻度が高いです。
Q6 A型肝炎の治療方法は?
- A型肝炎は自然治癒率の高い病気ですが、原則として急性期には入院して安静臥床とします。
- 肝機能の改善傾向、劇症化のないことなどが確認されれば、長期の入院の必要はありませんが、劇症肝炎が疑われる場合には、
専門施設での全身管理を含めた集中治療が必要となります。
Q7 HAV感染の感染予防法は?
- HAV流行地域に旅行場合は、十分に加熱された飲食物を飲食すること。
- 感染源は主に生水、氷、生の魚介類、生野菜等ですから、85℃で1分間の加熱を行うと死滅するので、十分に加熱調理してあるものを
食べましょう。
- 一般的に生水には注意を払いますが、氷に対しては無頓着な人が多いのが現状です、生水の飲めない地域の氷は、水と同様危険である認識を持つことが大切です。
- 更に、発展途上国では、瓶入りミネラルウォーターや、一度沸騰させたものを飲用し、カットフルーツなども洗った水が汚染されていることがあるので、自分で皮をむいて食べるほうが安全です。
- そして、食事の前には十分に手を洗い、HAV患者の糞便からの経口感染を予防するよう心がける必要があります。
- また、渡航前には、HAVワクチンを2〜4週間の間隔で2回接種し、その後、約半年後に3回目の接種をすると、5年間はHAV感染予防効果は有効といわれています。
- もう一つ忘れてはならないことは、オーラルセックス等で、肛門を愛撫することは、相手がHAV感染者であれば、感染するリスクが非常に高くなるので、このような行為は慎むことです。
Q8 HAVは性行為でも感染するのか?
- HAVに感染すると、HAVの糞便中への排泄は、臨床症状が出現する2〜3週前から血清GPTが極値に達するころまでの潜伏期の後半から発病初期にかけて起こります。
- 一般的にHAVを含んだ糞便に汚染された食物、水を経口的に摂取することにより感染する糞口感染が主な感染原因となりますが、性行為時に相手の肛門周囲を舐める行為(リミング)等のオーラルセックスによって感染します。
- 一方、HAVが糞便中へ排泄される時期に一致して、血液中にもHAVが出現しますが、その量は糞便中に比べて、はるかに少なく、また出現期間も短いため、HBVやHCVの様に血液によって感染が起こることはありません。
- また、精液を介して、性行為時に感染することはありませんが、発症直後の患者の唾液を経口的に摂取することによって感染が起こったとの報告があることから、キスでの感染の危険性があります。
Q9 HAVは性行為で感染しないのに、なぜ性行為感染症のひとつに分類されているのか?
- HAVは、経口感染で感染するため、性行為感染症としては認められないという説もありますが、男性の同性愛者などの間での性行為の一種によって感染が生じることがあることから、性行為感染症のひとつとしてに分類されています。
Q10 HAVの現状は?
- HAVは、全世界に散発性あるいは流行性に発生し、特に環境衛生あるいは個人衛生が不良な地域や施設内に多発する傾向があり、幼若年層に好発し、西欧各国では秋から冬にかけて好発するが、日本では2〜5月に好発する傾向があります。
- 日本全国各地の住民におけるHA抗体の保有状況を年齢階級別に検討した成績によれば、40歳以上の年齢層では大部分がHA抗体を保有しているのに対して、それ以下の年齢層ではHA抗体保有率が次第に低下し、20歳末満では極端に低くなっています。
- これは、日本国内では、HAVの感染が約20年前から激減し、感染機会がほとんどなくなったためです。
- しかし、東南アジア諸国などの開発途上国では、A型肝炎がなお常在伝染病として流行していることから、すでに幼小児期からHA抗体を高率に保有していることが認められています。
- 従って、これらの流行地域への旅行者あるいは長期駐在者に対する感染予防としてA型肝炎ワクチンも開発されていることから、積極的に接種を受けて感染予防をすることが大切です。
written by 血液の鉄人
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