HCVについて
Q1 HCVとは?
- HCVは、フラビウイルス科へパシウイルス属に属するRNAウイルスで、ウイルス粒子はエンベロープを持つ、直径35〜65nmの球状粒子であり、ゲノムとして9.5kbのプラス一本鎖RNAを持つています。
- HCVは肝細胞と一部のリンパ球を標的細胞とし、宿主の免疫機構やインターフェロンからエスケープして持続感染を引き起こし、更に、細胞内の中性脂肪を利用して増殖し、ウイルスの「コア」と呼ばれるたんぱく質の働きで、細胞内の中性脂肪が増加するという報告があります。
- HCVに感染すると、約70%の人がHCVキャリア(C型肝炎ウイルスの持続感染者)となり、治療せずに放置すると本人が気づかないうちに、慢性肝炎、肝硬変、そして肝がんへと進展することが多いので、注意が必要です。
- HCVは、肝炎ウイルスの中では比較的感染力の弱いウイルスで、主に血液を介して感染します。
- 膣分泌液や精液などの体液からの感染はほとんど起こりません
- 日常生活の場でHCVに感染する危険性はほとんどありません。
Q2 HCV感染者はどの程度いるのか?
- HCVはかつては、「非A非B型肝炎ウイルス」と呼ばれていたもののひとつで、1988年にウイルス遺伝子の断片が発見され、続いてウイルスの本体も明らかにされたことから、HCV(C型肝炎ウイルス)と名付けられました。
今日では、かつて「非A非B型肝炎」と呼ばれていたもののほとんどが、HCVの感染によるものであることが明らかになっています。
- 現在の日本のHCV感染者数は約200万、世界では1億7千万(世界人口の3%近く)がキャリアであると推測されています。
- HCVは感染しても肝炎を発症しないことが多いです。
- その理由としては、HCVに感作された細胞障害性Tリンパ球が肝細胞を傷害するためではないかと考えられています。
- 急性肝炎発症後もALTが高値を保ち、HCV RNAも陽性のまま持続して慢性肝炎に移行する例が多く、ALTが正常値を示した場合は通常HCV RNAも陰性となって治癒しますが、HCV RNAが陽性で無症候性キャリアとなる場合もあります。
- 遷延化して慢性肝炎となる割合は70〜80%ありますが、初感染で劇症化する例はほとんどありません。
Q3 HCVキャリアとは?
- HCVが体内に入っても、HCVそのものを排除できないで体内に持ち続けたままの状態の人を「キャリア」といいます。
- HCVを持続的に持っていても、全員が肝炎を発病するのではありません。
- HCVキャリアーであるが肝炎を発症しない人を「無症候性キャリア」と呼びます。
Q4 HCVに感染すると将来どうなるのか?
- HCVに感染すると、全身倦怠感に引き続き食欲不振、悪心・嘔吐などの症状が出現することがあります、そしてこれらに引き続いて黄疸が出現することもあり、更に黄疸以外の他覚症状として、肝臓の腫大がみられることがあります。
- しかしほとんどの人が、自覚症状がないままで経過し、HCVに初めて感染した人の70%前後は持続感染状態に陥る(キャリア化する)ことが知られています。
- 何らかの機会にHCVキャリア(C型肝炎ウイルス持続感染者)であることがわかった人の65〜70%は、初診時の肝臓の検査によって慢性肝炎と診断されますが、この場合でも、自覚症状がない場合がほとんどです。
- HCVに感染していることがわかったら、自覚症状がない場合でも定期的に肝臓の検査を受け、肝臓専門医の指導の下に健康管理を行い、必要に応じて治療を受けることが大切です。
Q5 HCVはどのようにして感染するのか?
- HCVは主に感染している人の血液から感染します。
- 例えば、以下のような場合には感染する危険性があります。
- 他人と注射器を共用して覚せい剤、麻薬等を注射した場合。
- HCV感染者が使った注射器・注射針を、適切な消毒などをしないでくり返して使用した場合
- 適切な消毒をしていない器具を使って、ピアスの穴あけ、入れ墨、出血を伴う民間療法などを行った場合。
- HCV感染者の血液が付着したカミソリや歯ブラシを共用した場合。
- 稀にHCVに感染している母親から生まれた子供。
- 非常に稀にHCV感染者と性交渉があった場合。
- 常識的な社会生活を心がけていれば、日常生活の場ではHCVに感染することはほとんどないことから、殊更感染に怯えることはありません。
Q6 性行為による感染とは?
- HCVは性行為で感染することは非常に稀とされています。
- しかし、感染しないと断定できるものではなく、他の性行為感染症の予防という観点からも、性遍歴の分からない人との性行為をする場合は、必ずコンドームの使用をお勧めします。
Q7 HCVの遺伝子型は?
- HCVはの遺伝子型は多く存在します。
- 現在、HCVの遺伝子型は、genotype-1a(I) (以下, "genotype-"を省略), 1b(II), 2a(III), 2b(IV), 3a, 3b, 4, 5a, 6a という分類をされていて,それぞれ病原性,感染性,治療への感受性の違い等の検証材料として用いられています.
- また 1b(II)はセログループ1[serogroup 1],2a(III)と2b(IV)はセログループ2[serogroup 2]という呼び方もされています。
- 日本ではgenotype-1aの感染者は殆んど存在せず,1bが約7割,2aが2割,2bが約1割とされています.
Q8 感染しているかはどうすれば解るのか?
- 感染を判断する検査は、以下のようなものがあります。
- 1.HCV抗体検査:HCVに感染した生体(宿主)が作る抗体が血清中に存在するかを検査する方法。
- 2.HCVコア抗原検査:HCV粒子を構成するコア粒子のタンパクを直接検査する方法で、血清の中のHCVの存在、量を知るために用いられます。
- 3.核酸増幅検査(Nucleic acid Amplification Test: NAT):HCVの遺伝子(RNA)の一部を試験管内で約1億倍に増やして検出する検査法で、血清中のごく微量のHCVを感度よく検出できます。
- 検査では、まずHCV抗体を検査し、「HCV抗体陽性」と判定された人の中には、「現在HCVに感染している人(HCVキャリア)」と「過去にHCVに感染し、治癒した人(感染既往者)」とが混在しています。
- このため、現在では、HCVキャリアとHCV感染既往者とを適切に区別するために前述の1〜3の検査法を組み合わせて判断する方法が一般に採用されています。
- HCVに感染した直後では、身体の中にHCVが存在しても、まだHCV抗体が作られていない(HCV抗体のウィンドウ期)為に、偽陰性反応となってしまいます。
- しかし、これは新規のHCV感染の発生が少ない日本では非常に稀なこととされています。
Q9 HCV抗体とは?
- HCV抗体とは、HCVのコア粒子に対する抗体(HCVコア抗体)、エンベロープに対する抗体(E2/NS-1抗体)、HCVが細胞の中で増殖する過程で必要とされるタンパク(非構造タンパク)に対する抗体(NS抗体:C100-3抗体、C-33c抗体、NS5抗体など)のすべてを含む総称です。
- 「HCV抗体陽性」と判定された人は、「現在HCVに感染している人、即ちHCVキャリア(C型肝炎ウイルス持続感染者)」の場合と「過去にHCVに感染し、治癒した人(感染既往者)」とに大別されます。
- 一般的に、HCVキャリアでは、血液中に放出され続けるHCVの免疫刺激に身体がさらされていることからHCV抗体がたくさん作られています(これをHCV抗体「高力価」陽性と言います)。
- しかし、抗体を作る能力には個人差があることから、ごく稀に、抗体があまりたくさんは作られていない人(HCV抗体「中力価」陽性)や、少ししか作られていない人(HCV抗体「低力価」陽性)も存在します。
- 一方、HCVに急性感染した後に自然に治癒した人や、HCVキャリアであった人がインターフェロン治療などにより、HCVが体内から完全に排除されて治癒した人(HCVの感染既往者)では、年単位の時間をかけて、血液中のHCV抗体は「中力価」から「低力価」陽性へと低下していきます。
- しかし、HCVが体内から排除されて間もない人(インターフェロン治療直後など)では、まだ血液中に多量のHCV抗体が存在する(HCV抗体「高力価」陽性)場合もあります。
- また、逆に、HCVに感染した直後では、身体の中にHCVが存在しても、まだHCV抗体が作られていない(HCV抗体陰性)ことがありますが(HCV抗体のウィンドウ期)、これは新規のHCV感染の発生が少ない日本では非常に稀なこととされています。
Q10 HCV抗体検査では偽陽性反応が起こるのか?
- 現在厚生労働省の認可を受けて、医療機関で使用されている各種のHCV抗体検査の試薬では、偽陽性反応はまず起こりません。
- HCV抗体が陽性であっても、HCV抗体「低力価」と判定される人では、そのほとんどでHCV RNAは検出さ(HCVの感染既往例と判定してよい)ないことから、必要以上にHCV抗体の検出感度が高い(必要以上に低力価のHCV抗体を検出する)試薬を用いることは意味のないことであるとされています。
- 現在では、HCVキャリアとHCV感染既往者とを適切に区別するために、血清中のHCV抗体の量(HCV抗体価)を測定することと、HCVコア抗原検査、および核酸増幅検査(NAT)によりHCV RNAを検出すること、の3つの検査法を組み合わせて判断する方法が一般に採用されています。
Q11 HCV抗体検査では偽陰性反応が起こるのか?
- 現在厚生労働省の認可を受けて医療機関で使用されている各種のHCV抗体検査の試薬では、感染しているHCVの遺伝子型(ジェノタイプ)にかかわりなく、「偽陰性反応」はほとんどないとされています。
- ただし、HCVに感染した直後では、身体の中にHCVが存在しても、まだHCV抗体が作られていない(HCV抗体のウィンドウ期)時期の場合は、偽陰性反応が起こることから注意が必要ですが、新規のHCV感染の発生が少ない日本では、一般にHCV抗体のウィンドウ期に検査を受けることは、ごく稀なこととされています。
Q12 感染後どのくらいの期間が経てば、HCV抗体検査でHCVに感染したことが分かるのか??
- 感染したHCVの量によって多少の差はありますが、一般に感染後3ヶ月くらいでHCV抗体は検出されます。
Q13 感染後どのくらいの期間が経てば、核酸増幅検査(NAT)でHCVに感染したことが分かるのか??
- 感染成立直後のHCVは、血液中できわめて早いスピードで増殖することがわかっています。
- 感染成立直後では血液中のHCV量が2倍に増えるために要する時間(ダブリングタイム)は10時間弱、10倍に増えるために要する時間はおよそ1.5日であることが明らかにされています。
- したがって、HCVに感染してから少なくとも1〜2週間後には、核酸増幅検査(NAT)によりHCV RNAは検出可能となります。
Q14 血液検査でHCV抗体が陽性であることが判明した場合、どうすればいいのか??
- HCV RNA検査を受け、「現在HCVに感染しているHCVキャリア(C型肝炎ウイルス持続感染者))」のか、「過去にHCVに感染し、治癒した(=感染既往者)」のかを判別する必要があります。
- HCV RNA検査を受けて、「現在HCVに感染している」ことがわかった場合には、肝臓の状態(肝炎の活動度、病期)を調べ、直ちに治療を始める必要があるか、当分の間は経過を観察するだけでよいかを判断します。
- このためには、C型肝炎に詳しい肝臓専門医師にかかり、精密検査を受けることが必要です。
Q15 HCVは夫婦間感染があるのか?
- 病院に通っているC型慢性肝炎、肝硬変、肝がんの患者150人の配偶者を調べたところ、このうちの21人(14%)がHCVキャリアであるという調査結果があります。
- 献血時の検査で見つかった自覚症状のないHCVキャリア50人の配偶者を調べた結果、約12%が夫婦ともHCVキャリアであったという結果も得られています。
- しかし、夫婦に感染しているHCVの遺伝子の配列を相互に比較してみると、大部分のケースでは一致しないことからして、この結果は夫婦間の感染ではなく夫婦それぞれが別々の感染源からHCVに感染していたことを示していると解釈されています。
- つまり、たとえ配偶者がHCVキャリアであっても、ごく常識的な日常生活の習慣を守っているかぎり、夫婦間での感染が起こることはほとんどないとされています。
Q16 C型肝炎の臨床症状とは?
- 1.急性肝炎:自覚症状はほとんど無く、発症初期に発熱や全身倦怠感、その後食欲不振や悪心・嘔吐が出現すし、黄疸となる可能性もあります。
- 2.慢性肝炎:自覚症状は少なく、全身倦怠感、食欲不振、易疲労感などを認めることがある程度です。
Q17 C型肝炎の治療法とは?
- C型肝炎の治療は、基本的には下記の考え方に従ってすすめられます。
- 1.抗ウイルス療法により、HCVを体内から排除することを図る。
- 2.肝庇護療法(抗炎症療法)により、肝の線維化進展の阻止または遅延を図る。
- 3.画像診断(超音波診断、CTなど)と腫瘍マーカー(α-FP、PIVKA-IIなど)を用いた肝がんの早期発見と早期治療により延命を図る。
- どの治療方針を選ぶかは、肝炎の活動度(肝細胞破壊の速度)、病期の進展度(肝線維化の程度)、末梢血中のHCV量及び型(セロタイプまたはジェノタイプ)、年齢、全身状態などをもとに、総合的に判断して決定されます。
- 抗ウイルス療法(インターフェロン療法、インターフェロンとリバビリンの併用による治療)によりHCVを駆除し、完全治癒を図ることが第1の選択肢となり、総合的に判断して、抗ウイルス療法の適応がないと考えられる場合や、抗ウイルス療法を行っても効果がなかった場合には、抗炎症療法(強力ネオミノファーゲンCの静注やウルソデオキシコール酸の内服など)を選択します。
- 第1の選択肢の対象とはならず、肝がんのリスクが高い状態(肝線維化の進展など)にまで進展している場合には、第2の選択肢、すなわち肝庇護療法によると共に第3の選択肢、すなわち画像診断、腫瘍マーカーを用いた定期的な検査による肝がんの早期発見、早期治療を行い、延命を図ります。
- 以上のように、C型肝炎の治療は、適切な診断に基づいて、適切な治療方針を選択して実施することが最も大切なことから、治療方針を決めるにあたっては肝臓専門医の関与が必要となります。
Q18 HCV感染予防対策とは?
- 現在血液センターでは、HCVのNAT検査を行って、輸血用血液からHCVの含まれる血液を排除していることから、輸血によるHCV感染は、ほとんどありません。
- また、HBVのように性行為や母子感染はほとんど無く、注射器のディスポ化、医療機器の衛生管理が充分行われていることから、新規の感染者はほとんど無くなっています。