医事通信(2010年05月25日号)
母乳感染による成人T細胞白血病(ATL)が全国に拡大!!
成人T細胞白血病(ATL:Adult T-cell leukemia)は、HTLV-1(Human T-lymphotropc Virus Type I:ヒトT細胞好性ウイルスT型)によって引き起こされる血液疾患です。
このウイルスは、血液や体液の中のリンパ球に潜んでいます。
ATLは母乳や精液に含まれるウイルスで感染し、感染しても生涯発症率は約5%と低いですが、発病すると根治は非常に困難な感染症です。
感染経路としては、以下の三つがあります。
1.母乳による子供への感染
2.輸血による感染
輸血用血液の検査の精度が高まり、HTLV-1を含む輸血用血液は、ほぼ100%取り除かれていることから、輸血による感染は、まずありません。
3.性行為による感染
精液の中のHTLV-1によって感染することから、男性→女性の感染がほとんどですが、HTLV-1の感染力が非常に弱いことから、性行為による感染は、
ほとんど起こらないことが分かってきています。
そのことから、現在のHTLV-1の原因は、1の母乳による感染となっています。
今回、いみじくも母乳を介して乳児に感染し、関東地方では20年近くで1.5倍に増えるなど全国に広がっていることが、厚生労働省研究班の調査で判明しました。
また、ここ数年、ATLの死者は年間1100人前後で推移、発症者が増えているもとも判明しました。
更に、妊娠時の妊婦の感染を調べる血液検査が徹底されていない実態も判明し、研究班は、感染の根絶には全国的な検査の徹底が必要との提言をまとめました。
妊娠時にHTLV-1抗体検査を行い、感染が判明すれば、乳幼児への感染防止を行う必要があります。
乳幼児への感染防止対策は、
1.母乳中に含まれるHTLV-1を乳幼児に飲まさないようにする為に、母乳を止める。
2.母乳が必要なときは、母乳を一度−30℃以下で凍らせて、その後37℃で溶かして飲ます。
母乳を凍結することで、母乳中のHTLV-1が死滅することから、感染を防止できる。
3.母乳を一切やめて人工乳とする。
妊娠時の検査を充実することから、母親から子供への感染経路が断ち切られて、2世代で病気を根絶できるようになります。
検査用する費用は、全て超え非負担で実施して欲しいものです。
以上の報告を受けて、日本産科婦人科学会が成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルス(HTLV−1)検査をすべての妊婦が受けられるよう推奨する方向でガイドラインの改定を検討していることが27日判明しました。
母子感染を防ぐのが目的で、2011年度からの検査費の公費負担を目指すとしています。
現在、妊婦へのHTLV-1検査の実施率は、87.8%で、100%近いHIVやB型肝炎などと比べ低いのが現状です。
現在のガイドラインでは、実施が考慮されるが必ずしも推奨されない推奨度「C」とされており、これを実施が推奨される「B」に引き上げる案を7月の会合で合意を得た上で一般会員の意見を募り、2011年4月に改定したいとしています。
ちなみに現在、HIVなど推奨度B以上の検査は、公費負担となっています。
☆成人T細胞白血病(HTLV-1)に関しての解説は、『新医学と切手の極意』の『知識の窓』の『成人T細胞白血病、HTLV-1について』をご覧下さい。
written by 血液の鉄人
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